【消化器コラム】突然の下痢!急性腸炎と抗菌薬の正しい使い方
飼い主さんが日常的に最も直面しやすいトラブルの一つである「急な下痢(急性腸炎)」についてのお話しさせていただきます
動物病院を受診する前にチェックしたいポイント
愛犬や愛猫が下痢をして病院へ連れて行く際、獣医師は原因を特定するために様々な質問(問診)を行います。
スムーズな診断のために、以下のポイントを事前にメモしておくか写真に残しておいていただくととても役に立ちます。
- 下痢の期間と頻度:どれくらいの期間下痢継続していますか?1日に何回便をしますか?
- 食事との関連性:食事の種類を変更しましたか?それはいつからですか?
- 便の性状:未消化物が混じっていますか?便の色(茶・黄・黒・赤・その他)はどうですか?臭い(酸っぱいなど)はどうですか?、血液の混入はありますか?
- 排便状態:しぶり(トイレでいきみ続ける)はありますか?
- その他の症状:食欲や飲水量はどうですか?嘔吐など他の症状はありますか?
- 過去の履歴:ワクチン接種歴や過去の病歴、投薬歴(NSAIDなどの痛み止めを使用していないか)はありますか?
便の性状などから、下痢が「小腸性」なのか「大腸性」なのかを鑑別することは、原因疾患の特定や、今後の治療法(とくに食事療法)を選択するうえで非常に重要になります。
以下に「小腸性」と「大腸性」の違いを示しておきます。
| 便の状態・徴候 | 小腸性下痢 | 大腸性下痢 |
|---|---|---|
| 便の状態 | ||
| 粘液便 | × | 〇 |
| 鮮血便 | × | 〇 |
| 脂肪便 | 〇 | × |
| メレナ(黒色便) | 〇 | × |
| 排便 | ||
| 排便頻度 | 正常~やや増加(2-4回/日) | 増加(3-5回/日) |
| 排便障害 | × | 〇 |
| しぶり | × | 〇 |
| 他の徴候 | ||
| 体重減少 | 〇 | △ |
| 嘔吐 | 〇 | △ |
| 食欲 | 正常~減少 | 正常(重症例では減少) |
| 腹鳴・鼓腸 | 〇 | × |
| 便失禁 | × | 〇 |
一般的な急性腸炎への対応と食事療法
突然の下痢の多くは、食事の乱れや軽度のストレスなどが原因です。
小腸性の下痢では栄養素の消化・吸収が悪くなっているため、治療においては胃腸に負担をかけずに消化・吸収できる食事(主に低脂肪系の療法食)が有効です。
市販されている消化器用の療法食には、高消化性のタンパク質、脂肪、炭水化物が使用されています。代表的なものとして、「消化器サポート(ロイヤルカナン)」や「消化ケア i/d(ヒルズ)」などが挙げられます。
元気や食欲が保たれている軽症例では、こうした食事管理などの支持療法だけで自然に治癒することがほとんどです。
「とりあえず抗菌薬(抗生物質)」はもう古い?
一昔前までは「下痢=下痢止めと抗菌薬」という処方が一般的でした。しかし、現代の獣医療では、一般的な急性下痢に対する安易な抗菌薬の使用は推奨されていません。
最大の理由は、腸内環境(腸内細菌叢)への悪影響です。抗菌薬は悪い菌だけでなく、腸の健康を保つ善玉菌まで死滅させてしまい、回復をかえって遅らせる原因になります。また、不必要な抗菌薬の使用は、薬が効かなくなる「耐性菌」を生み出すリスクも高めます。
抗菌薬が「本当に必要なケース」とは?
では、どのような時に抗菌薬を使用するのでしょうか。それは、感染による重篤なリスクがある場合や、全身状態が著しく悪化しているケースに限られます。具体的には以下のようなサインがある時です。
- 意識レベルが低下している、ぐったりして動かない。
- 頻脈や頻呼吸が見られ、ショック状態に陥る危険がある。
- 高体温(発熱)など、全身性の強い炎症サインが出ている。
- 血液検査で白血球(好中球)が減少しており、免疫力が低下している。
- 腸管のバリア機能が破綻し、細菌が血流に乗るリスク(敗血症)が疑われる場合。
慢性的な消化器疾患の中には、抗菌薬に反応する下痢も存在します。
まとめ
愛犬・愛猫が下痢をしてしまったら、まずは慌てずに便の様子と全身状態(元気・食欲)をよく観察してください。元気があれば、消化の良い療法食等で胃腸を休めることが第一歩です。しかし、ぐったりしている、熱がある、何度も嘔吐を繰り返すなどの異常があれば、なるべく早く動物病院を受診してください。
次回は、「なかなか治らない長引く下痢」に焦点を当て、犬の慢性腸症(CE)について詳しく解説していきます。お楽しみに!




















